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京都大学大学院法学研究科・曽我部真裕(憲法・情報法)のページです。

新型インフルエンザ等対策特別措置法等の改正問題について

*ちょっと前に某メディアに寄稿させて頂いた文章です。

 

 一般論として、罰則をはじめ、強制力のある措置を導入するために法律を制定・改正することはありうることだが、そのためには憲法などに由来する「作法」がある。

 政府は、早期に(新型コロナウイルス対策を定める)新型インフルエンザ等対策特別措置法感染症法の改正を実現したい意向だという。その柱の一つが、個人や事業者に対する強制力をもった措置の導入であり、飲食店などに対する休業や営業時間短縮の命令、調査や入院を拒否した感染者への罰則([注]その後の与野党修正協議で「過料」に)といったものである。

 この中でも特に複雑な検討を要するのは、飲食店などに対する措置であろう。知事が飲食店などに対して営業短縮や休業を要請し、応じない場合には命令を行い、違反店舗に対しては、過料(刑事罰とは異なり、前科にはならない)を科すという。

 こうした規制の検討が難しいのは、飲食店などでの会食が感染拡大の一大要因であるとしても、やや単純化すれば、店は会食の場を提供しただけで、感染に一次的な責任はないからである。客の行為から問題が生じているのに店がペナルティーを受ける構図で、店側に責任のある食中毒による営業停止とは異なる。

 しかし、リスクのある会食をした個々人を規制することは困難であり、会食による感染拡大を防止しようと思えば店の規制しかないのが現実だ。

 こうした点や、全面的あるいはピーク時の営業を認めない休業・時短命令が憲法22条から導かれる「営業の自由」に対する強い規制であることを考えると、規制の設計に当たっては次の点の考慮が必要である。

 まず、規制の必要性を裏付けるため、自粛要請では十分に効果がなかったことを示す必要がある。次に、規制の範囲や程度が適切であることである。規制対象業種・業態の範囲の決定には公平さが求められるし、規制の程度は必要最小限であることも求められる。

 さらに、金銭的「補償」も求められる。ただし「補償」と「事業支援」とは区別すべきで、すでに売り上げが大幅減少しているいま、コロナ禍の前の売上高が「補償」の基準となるわけではない。規制の許容条件としての「補償」と、政策論としての「支援」(こちらには融資なども含まれる)とは概念上区別が必要だろう。

 ところで、休業命令などの措置は、緊急事態宣言前の段階で「まん延防止等重点措置」としてなされることが想定されている点は、理解しづらい。

 緊急事態宣言発出の要件や国会報告の手続きが法定されている以上、宣言の効果として強制措置が発動できるとするのが通常の考え方だろう。政府限りで可能な宣言前の措置にはいま見たような歯止めがなく、また、特措法の構造とも整合しないように見える。

 法改正に当たっては、以上のような論点について透明性をもった議論が求められる。現在、政府・与野党で不透明な調整が続いているが、国会提出後、特に議論なく可決するということのないよう期待したい。

 最後に、緊急事態への対応の枠組みは本来、平時に構想すべきものだ。例えば、今回の改正は時限立法にするなどして、落ち着いてから全体を再検討してはどうだろうか。