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京都大学大学院法学研究科・曽我部真裕(憲法・情報法)のページです。

LINE大倉さん江口さん講演会レポート

LINE大倉さん江口さん講演会レポート

                                清水麻友美

 

 

今回は、8月10日(水)午後に行われましたLINE株式会社の社内弁護士の大倉さんと公共政策室室長の江口さんの講演会の模様を報告させていただきます。

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まず初めにLINEのサービスについてのお話を伺いました。我々の生活に今や欠かせない存在となったLINEですが、LINEの通信機能は2011年の東日本大震災の際にメールが通じなかったことをきっかけに開発されたものであり、他のSNSと違って既に親しい仲の人との通信を目的としたクローズド&リアルなSNSであるとのことでした。その性質・利便性から日本だけでなく東南アジアを中心に外国でも多くの人に使われている、ということをお聞きしました。

 

続いて、こうした日本発SNSとして最前線にいらっしゃるLINEが如何にして、またどのような法的問題に対処しているのか、を企業内の法務部門の活動を中心にお話しくださいました。

まず、企業外の弁護士に依頼をするのではなく企業の中に法務部門を置く理由についてお話いただきました。金銭面や親密性といった理由に併せ、コンプライアンスが単に法律問題として片づけられないような会社特有の規範の遵守も兼ねたものであるため外部の弁護士に聞いても分からない部分があるからといった理由が存在しました。

法務部門の任務は大きく分けて、紛争を未然に防ぐための予防法務、不祥事や訴訟に対応する有事対応、M&Aのサポートなどをする戦略法務に分かれるそうで、究極的な目的は法律を武器にして会社の利益に貢献することであり、そのためには企業の社会的責任を果たす必要がある、と言われたことが印象深かったです。

LINEの法務部門はいくつかの部門に分かれており、扱う法律分野も知財、労働、ファイナンスから、海外の消費者保護の実態を知るため国際法務にまで及んでいるとのことでした。

 

次に学生の我々に分かりやすいケーススタディの形でどのような問題にLINE法務部が対応してきたのかについてのお話を伺いました。

一つ目は商標登録にかかる問題でした。「LINE」という名称はありふれた名詞であったためなかなか登録がかなわず、リリース後一年経って著名性を獲得したのちようやく登録できたそうです。

二つ目は通信サービスに伴う個人情報保護の必要性。利用者の同意を調達するプライバシーポリシーや約款の文面を考えるのも法務部の仕事とのことでした。

三つ目はシステム製作の外部委託にかかる契約の内容や開発方式、秘密保持等の合意を得ることです。契約内容が請負か準委任かで受託者の義務の範囲が違ってきたり、開発方式にも影響を与えたりする、とのお話は非常に興味深かったです。

四つ目は特許調査に関して、でした。特許を侵害していないかあらかじめチェックし、受け入れても大丈夫なリスクかどうかの判断を行うそうです。日本とアメリカでは特許訴訟の性質が異なっているため、そうした外国との制度比較を行うことも重要とのことでした。

五つ目はマネタイズによるバーチャルマネー制度に関してで、資金決済法との兼ね合いがあったところ法改正により可能になったとのことでした。

最後に、通信の秘密と警察への情報提供の関わりについてお話いただきました。LINEではニックネームや電話番号等の利用者登録情報を個人情報とみなし、警察が令状を持っている場合や緊急避難時、法令に基づく場合以外では提供は行わないとのことでした。一方で会話内容に関しては通信の秘密の保護の必要性があることから、令状を提示された場合にのみ提供することにしているそうです。この場合緊急避難が成立した時は公益との均衡を考えた上でLINEの情報をもってしか問題を解決できないと判断した場合に情報を提供するそうですが、未だ判断には悩むことがあるとのことです。さらに海外の警察が絡んできた場合には問題はさらに複雑になるそうで、海外の令状が効力を持たないのはもちろんではあるものの緊急避難は当てはまっても良いのではないかと考えられているそうです。現状では文献に記載がないため、緊急避難が外国企業に対しても及ぶとした判決を援用したいと考えられているとお話いただきました。

 

講演の最後には質疑応答の時間を設けて下さり、学生側からは株式上場の話から国際共助の問題、LINEいじめの問題に至るまで多岐にわたる質問が出ました。

特に私の印象に残ったのは、LINEいじめの問題でした。LINEがこうした問題に対処すべく講習や教材作成を行っていること、生物学や臨床心理学といったさまざまな分野から独自に研究を行っていることは通信事業者というLINEの側面から私が予想していたものとは違っていて、こうした活動も企業活動の一部であり、本レポート前半に述べさせていただいた企業の社会的責任を果たすことなのだなと実感させられました。

 

最後にこの場をお借りして、忙しい中お越しくださった大倉さん、江口さんに御礼申し上げます。有難うございました。