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Bienvenue sur le blog de masahiro sogabe

京都大学大学院法学研究科・曽我部真裕(憲法・情報法)のページです。

児童ポルノ禁止法改正問題についての個人的意見

児童ポルノ禁止法改正問題についての個人的意見

 この問題については,本年5月29日に自民党公明党維新の会より法案が提出され,これについてあちこちで意見を求められてきましたので,ここに簡単にまとめておきたいと思います。

 法案の条文そのものと要綱(概要)についてはこちら(衆議院ホームページ)をご覧下さい。

1.「自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノ所持等についての罰則」については,問題が多く,実態把握に基づき効果的かつ最小限の規制を工夫すべき

 「児童ポルノ」は,実在児童を前提とするもので,性的虐待の1つです。従来は製造や拡散をする側だけに罰則が課されてきたわけですが,児童ポルノの被害は深刻であり,受け手の側に罰則を設けることも一定程度理解できます。

 

 しかし,「単純所持」への罰則は,「児童ポルノ」の定義があいまいかつ広すぎるという問題点とも相まって,誰もが以前から所持している可能性があり,かつ,これまで社会的に許容されてきたようなアイドルの写真集やグラビアについても摘発の可能性が残るなど捜査当局に過度の裁量権を与え,濫用の危険があります。また,このような場合には「性的好奇心」充足目的は容易に認定されてしまうと思われます。

 児童ポルノ流通の実態把握に基づき,効果的かつ最小限の規制を工夫すべきです。

 

 また,都道府県の条例の中には,13歳未満の児童ポルノ所持等に限って対象とするなどの最小限の罰則と,それ以外の措置を組み合わせたような工夫をしているものがあり,こうした取り組みを参照することも考えられます(この点についてはこちらをご覧下さい)。

2.インターネットの利用に係る事業者の努力義務の規定は不必要

 本法案は,児童ポルノの拡散防止のため,プロバイダ等の通信事業者に捜査機関への協力や自己の管理権限に基づく措置をとるよう務めるものとする,としています。

 

 現在,すでにほとんどの主要プロバイダが,「通信の秘密」というそれ自体重要な原則との関係で悩みながらも,児童ポルノブロッキングを自主的措置として行なっています(ブロッキングについてはこちらをご覧下さい。なお,P2Pでの児童ポルノ拡散防止について捜査機関に協力している事業者もあります)。

 

 本法案のこの規定は,まずは更に多くのプロバイダにブロッキングの実施を求めることが主眼であるように思われますが,それに限定されるものではなく内容が不明確です。

 

 このような不明確な内容の努力義務化は,捜査機関による不透明な圧力の温床となるおそれがあり不適切です。自主規制の要請は,真に通信事業者に協力を求める必要がある場合に,より透明性の高く明確な形で行うべきだと考えます。

 

3.「児童ポルノに類する漫画等」に関する調査研究・「必要な措置」の検討の規定も不必要

 本法案は本文ではなく附則において,「児童ポルノに類する漫画等」と児童に対する性犯罪等との関連に関する調査研究を推進し,施行後3年を目途に「必要な措置」の検討を行うとしています。つまり,本法案によって直ちに規制がなされるわけではなく,一部の反対論には誤解がありますが,以下のような問題点があると考えます。

 

 まず,現在の「児童ポルノ」や製造や販売等の規制目的と,具体的な被害児童が登場しない創作物の規制は目的が全く異なるため,「児童ポルノに類する」とはいえません。現在の実在児童を被写体とする「児童ポルノ」の主な規制目的は,現実に性的虐待が行われることの防止,またそうした性的虐待の映像が拡散することによる精神的苦痛の防止であるのに対し,ここで想定されている創作物規制の目的は,せいぜい性犯罪の助長の防止という一般的・抽象的なものです。目的が全く異なるものを「類する」として同一法律の中に規定することは,不適切で混乱を招きます。

 

 また,本当に調査研究を推進したいのであれば,推進体制や予算措置も併せて議論すべきであって,それ抜きでは「規制ありき」という意図かと疑われてもやむを得ないと思われます。

4.透明で合理的な議論を

 本法案は議員立法として提出されています。政府提出法案は,一般に,有識者の審議会等での検討を経るため,議論の過程がそれなりに透明であり,それなりの合理性があるのに対し,議員立法はこうした過程がなく,非公開の党内論議や各党協議で検討が行われます。本法案も国会提出までは法案内容が正式には公開されていませんでした。

 水面下に根回しをした上で国会に提出し,おざなりな国会審議で成立を図るのだとすれば,刑罰法規であるだけに一層,その実質的な正統性に疑問を抱かざるをえないところです。

                                             以 上